こばのページ/ラテン語/結婚指輪で使われるラテン語

刻印をどうすべきか

このページでは単語を以下の 2 通りのどちらかで表現しています。

• 単語 (長音記号付き単語、カタカナ読み)
• 単語 (意味)

例えば carus (cārus, カールス) です。

これらのうちどれを刻印すべきでしょうか? 筆者は括弧の外に書かれている単語 (carus など) だと思っています。理由としては、

• 長音記号 (ā, ū, Ā, Ū など) を印字するのは難しそう
• 長音記号はあくまで学習用であり、ラテン語を普段使いするときには使われない

があります。

また、大文字と小文字のどちらで刻印すべきかという問題について、筆者は大文字で刻印する方を推奨します。

以下の注意点があります。(詳しくはこのページを見てください。)

• u をすべて V にする (carus → CARVS など)
• j をすべて I にする (justitia → IVSTITIA など)

以上を踏まえ、仮に「最愛の女性、マイハニー」という意味の言葉 (cārissima fēmina, mēl meum) を刻印したいのであれば、刻印は

CARISSIMA FEMINA, MEL MEVM

となるでしょう。

誤りの例

参考資料 (「結婚指輪 ラテン語」で Google 検索すると見つかるもの) が一様に間違っているところがあるので、このページで列挙しておきます。

深刻なものから上に並べています。

• Pactum serva (Pactum servā, パクトゥム・セルワー)
  • 「協定・約束を守れ」という意味です。
  • 「信頼し続ける」という意味だと紹介しているサイトがありますが誤りです。上にもあるようにこのフレーズは命令文ですので、パワーハラスメントがしたいのでない限りは絶対に使わないでください。
  • もし「協定・約束を一緒に守ろう」という意味にするのであれば Pactum servemus (Pactum servēmus, パクトゥム・セルウェームス) となると思われますが、これを言いたい場面は相当限られるでしょう。
• In manus tuas commendo spiritum meum
  • 「あなたの手に我が魂を委ねる」という意味で紹介されており、意味は正しいです。しかし文脈が問題です。『ルカによる福音書』23 章から引用されているのですが、中身は以下です。

    Et clamans voce magna Jesus ait: Pater, in manus tuas commendo spiritum meum. Et haec dicens, expiravit.
    拙訳: そしてイエスは大声で叫びながら言った: 父よ、あなたの両手へと私の魂を委ねる。そしてこれらのことを言った後、彼は死んだ。
    

    不吉なので個人的には使いたくありません。

• Amor est vitae essential
  • 正しい形は Amor est vitae essentialis (Amor est vītae essentiālis) です。
  • 「愛はかけがえのないもの」という訳で紹介されています。「人生の」が抜けていますがそれ以外は正しいです。
• amos (アモス)
  • https://latinitium.com/latin-dictionaries/?t=lsn2294,lsn2299 から、amor (愛) の古い形であることが確認できます。
  • 「最愛の人」という意味で紹介されることが多いようです。これは誤りと言えるでしょう。
  • 「最愛の人」という意味にする場合、代案は carissim(-us,-a,-um) です(原案)。carus (親愛なる) の最上級です。
    • 男性: carissimus (cārissimus, カーリッスィムス)
    • 女性: carissima (cārissima, カーリッスィマ)
    • 中性: carissimum (cārissimum, カーリッスィムム)
    • これは自分の性ではなく、対象者の性によって使い分けることに注意しましょう。
• vitum mirabilis
  • おそらく vita mirabilis (vīta mīrābilis, ウィータ・ミーラービリス) が正しい形でしょう。
  • 「素晴らしい人生」という意味は正しいです。
• honeste (honestē, ホネステー)
  • 副詞であり、「誠実に、名誉に値する方法で、きちんと」という意味があります。
  • 「誠実」という意味で紹介されることが多いようです。細かいですが名詞ではないので微妙に誤っています。とはいえこれを何かに書いたとして問題は全くないでしょう。
  • もし仮に「誠実」という名詞形にしたいのであれば、代案は honestas (honestās, ホネスタース) です。
• Da mihi basia mille (Da mihi basia mille, ダ・ミヒ・バスィア・ミッレ)
  • 「私に千のキスをしてください」という意味です。意味は正しいですが原文では mihi が mi になっています。これも何かに書いたとして問題は全くないでしょう。
  • Da mi basia mille (Da mī basia mille, ダ・ミー・バスィア・ミッレ)
• Quos amor verus tenuit, tenebit (Quōs amor vērus tenuit, tenēbit)
  • 「本当の愛が一度とどまった者たちには、その後もとどまるだろう」という意味です。
  • 「真実の愛はそれを持った者にもたらされます」という訳が出回っています。これだと「とどまった」と「とどまるだろう」の対比がなく意味不明です。
• Con Todo Me Amore
  • おそらくイタリア語です (未検証) ラテン語ではないです

お勧め

「山下太郎のラテン語入門」というページに格言をまとめたものがあるので、その中を探すのが最も確実です。

それだけだと芸がないので、個人的に好きな文章もまとめておきます。

• Pulchra es, amica mea (Pulchra es, amīca mea)
  • 「あなたは美しい、私の愛する人よ」という意味です。『雅歌』第6章です。
  • 対象者の性によって使うべき単語が違うことに注意しましょう。
    • 男性: Pulcher es, amice mi (Pulcher es, amīce mī)
    • 女性: Pulchra es, amica mea (Pulchra es, amīca mea)
    • 繰り返しになりますが、これは自分の性ではなく、対象者の性によって使い分けることに注意しましょう。

参考資料

• https://www.iprimo.jp/columns/cc_3/column123.html
• https://www.k-uno.co.jp/bridal/article/ring-engraved/
• https://weddingring.wmjp.net/examples/latin/
• https://yamatoyabridal.com/%E7%B5%90%E5%A9%9A%E6%8C%87%E8%BC%AA%E3%81%AB%E5%85%A5%E3%82%8C%E3%81%9F%E3%81%84%EF%BC%81%E3%81%8A%E3%81%97%E3%82%83%E3%82%8C%E3%81%A7%E7%B4%A0%E6%95%B5%E3%81%AA%E5%88%BB%E5%8D%B0%E4%BE%8B/
• https://silverya.com/archives/16820
• https://www.hitotsuchi.com/blog/7618.html

編集履歴

• 2024-03-11 v1.0.1 完成。タイトルをページトップに追加。
• 2024-02-28 v1.0 完成。